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それから私は自分の気持ちを隠したまま、菜津子に協力した。浩樹は菜津子の気持ちになかなか気付かず、私は少し安心した。
それは、ちょうど一ヵ月前。部活も引退した私たち三年生が本格的に受験生へと変わった夏の日のことだった。
私はテニスラケットを肩にかけ、トボトボと帰路についていた。ちょうどその日、私が入っていたテニス部は中体練で負けてしまい、引退となった。なんだかすごいやるせなかった。
すると、後ろから私を呼ぶ声がした。
「春美!」
後ろを振り返ると、浩樹がサッカーボールを抱えて、走ってきた。夕日をバックに走ってくる浩樹がなんだかかっこよかった。
「春美、大会どうだった?」
「負けちゃった……浩樹は?」
「そっか。俺たちも負けちゃった」
「そっか……もう二人とも受験生だね」
それからしばらくお互い黙ったままだった。
すごく浩樹の隣りは心地よくて幸せだった。
「春美」
「何?」
浩樹がとまった。顔を伏したまま。私も立ち止まる。
どこからか、チャルメラの音が聞こえてきた。
「俺……春美のことが好きだ」
体が痺れたようだった。
「だから俺と……付き合ってください!」
一瞬菜津子のことが頭をよぎった。でも、気がつくと私は頷いていた。
「……うん、いいよ」
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