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私と菜津子は向き合う形となった。
紐がだらんとたれている。
すると、菜津子が笑った。
私は耳を塞いだ。悪魔のような笑い声を聞きたくなかった。
「あはは。あなたのその表情、面白いわ」
夕日が菜津子の影をつくり、私を黒い黒い影が包み込む。
ふと、景色がかわる。
影がなくなり、目の前にいたはずの菜津子と高低差があった。菜津子が私を押したのだ。
紐が一気に張った。私と菜津子の間には五段、紐も五段ぶんの余裕をなくす。
それを見た菜津子が笑う。
「はは!楽しいわ!あなたのそんな表情を見てるのが!」
私は立ち尽くした。
菜津子はどれほど私を憎んでいるか、それがわかった。涙がでなくなった。
私はとても悪いことをしたんだ。菜津子がどれほど浩樹を愛していたか知っていた。菜津子は私を信じていた。でも、私はそれを裏切った。私は自分を選んだ。菜津子を天秤にかけようともしなかった。
菜津子を傷つけたんだ。
……私が悪いんだ。
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