願望百貨店

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男は非常にお金に困っていた。 その由を軽く話すとこうだ。 お金に困っていたからお金を借りた所、返せなくなり利子が増える。余計に酷い事態になったというところ。 男は働いてもすぐ弱音を吐いたり向上心がないため仕事も覚えない。 つまりは使えない人間。 そのためすぐに仕事を辞めたり辞めるハメになったりする。 男は人生の溝にはまってしまったのだ。 人生の溝は、はまればたちまち抜け出せない繰り返しにかられる。 犯罪を犯した者がまた同じ犯罪をする事と同じように。 何をやってもすぐに辞めたり諦めたりする事が癖になってしまっていた。 そのくせ金はおとがめなしに遣うという最悪の状態だった。 男の性格はそういったもので、職が酷く見付からないところで新しくスタートを切る為に借りた金も一晩で女に遣いなくなる始末。 ドンドンドン ドアを叩く音 【おい、いるのは分かっているんだぞ。金を支払わないと後が酷いぞ】 向こうから声が聞こえる。 男は涼しげな顔をして本を読んでいた。 男が冷静でいられるのは慣れているから。こんな事は日常茶飯事。 相手の様子から無理矢理入って来る時、来ないときまで察する程男は慣れていた。 なにせ、入って来る場合はここで本など読んではいないはず。 借金のプロとでも言おうか。 世間一般的に見ればとんでもない呆れた男である。 ドアの向こうから音がしなくなり、取り立て屋は帰った。 「参ったな」 男は困った顔をした。何故なら男の予想では次は入り込んで来るであろうから。 借金は額もましてとてもじゃないがすぐに払える様な金額ではなかった。 何か良い案がないだろうか。 他の会社から金を借りて賭けに出ようか。博打で当たれば払えない額ではない。 音楽でもやろうか。 売れれば大儲けだ、借金などたちまち…。いや、機材がないし金がないから揃わない。 では本を出そう。それならペンと紙があれば可能だ。本を出して売れればそれが金に変わる。借金などたちまち…。 いや、それには恐ろしく時間がかかりそうだ。 男には現実みをおびた考えが出来なかった。なにせ額が額だから。 どうすればいいだろう。どうすれば金が入るだろう。 ひたすら男は考えていた。 とりあえず家に居ては良い考えは浮かばない。一度新鮮な空気を吸って考え直してみようじゃないか。 外はまぶしい位に晴れている。 男の心は曇りなのに。
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