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「こうなんです。別れた妻から手紙があって、その内容が実に奇妙なんです。」彼はぶ厚い手で、その便箋を広げ僕に読んでくれと言った。僕はそんな人のプライバシーを覗き見することはいやだったが、彼の真剣な態度に、やむやむ読んでみようとした。内容はこうだった。
「あなたは、以前、私にこう言ったことがあったわね。絶対死ぬまで一緒だと。私はそれを真に受けて結婚したのだけれども、いつも夜中に起きだして外出していたわよね。私はそれは不思議ではなかったの。何か切羽詰った出かけなくてはいけないことだと理解してた。でも、残った私は一人で一体、何をしてくるのだろうと考えると、もう眠れなかった。そして、ある夜、いつものようにあなたが夜起きだして外に出かけようとした時、私は後をつけようと決心したの。何かを見極めようとしたの。」
僕はそこまで読んで、ふむ、ここまではありふれた夫婦の生活だなと思い、ペラペラとあと何枚あるのかなと枚数を数えてみた。あと5枚はありそうだった。僕は濡れたコースターからアイスコーヒーのグラスを剥がし口の渇きを潤し、彼の顔を窺った。彼はまだしきりにハンカチで顔の汗を拭い、せっかちに何度もコーヒーのストローに口を運んでいた。僕が手紙を読むのをちっとも気にしてないように。
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