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神谷の通っていた中学校から、中橋学園に進学したのは指折り数えれるほど。
その全員が、何故瀬名が中橋学園に進学を決めたのか、事情を知っていた。
中学校では、かなりの有名人だったからだ。
そして、瀬名にとって『野球』がタブーであることを、重々承知している。
「大羽中出身の神谷瀬名です。よろしくお願いします」
恒例の自己紹介タイム。
瀬名は野球のことに触れず、無難に挨拶を済ませる。
自己紹介はその後もスムーズに進む。
元々偏差値が高めなだけあって、ここにいるクラスメイトは基本的に『普通で良い人』ばかりだ。
奇抜なパフォーマンスをする者はなく、面白味に欠けるが、これが校風と言えばそれまでだった。
やがて、自己紹介も終盤に差し掛かった時、『彼女』の番となった。
「夏峰中出身、藤村真琴です。中橋学園には、野球をする為に来ました。私と一緒に全国制覇したい人は、私に着いてきなさい。以上」
声も高らかに、宣言した。
野球という単語に瀬名が反応し、声の主に振り返る。
健康的に日焼けした美少女がそこにいた。
これが、高校野球を避けた筈の少年、神谷瀬名と、藤村真琴との最初の出会いだった。
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