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セオリーで考えるなら圭織はこの左打者のミチルとの対戦後に降板させるべきである。
マウンドの絵美が圭織以上の打棒の持ち主なら多少は理解できるが、
(そんな打つようには思えなかった)
簡単にバントを三回失敗してアウト。
代打で登場した意味がない。
仮に左打者に続けて打たれたから降板だとしても、投球内容に問題はなかった。
雛が上手かったのと、真琴が規格外だっただけだ。
相手の真意が全く見えない。
瀬名が神谷学園の采配に首を傾げていたその頃、試合を観戦していた邦華女子の藤原姉妹は険しい表情を浮かべていた。
「四回から早くも“彼女が登板”か。神谷学園も相当中橋学園を警戒しているね、姉さん」
「警戒しているなんて生易しいもんじゃない。この試合で神谷学園のジジィは中橋の監督を潰すつもりかよ」
これまで何度も全国大会や選抜大会で対戦してきたからこそ分かる。
今マウンドに上がっている絹川絵美という選手が、どれだけ恐ろしい選手なのかを。
中橋学園は思い知ることになるだろう。
だが、二人が警戒する絵美だが、二人は“味方であってほしい”とは絶対に思わなかった。
敵にしたなら非常に厄介だというのに味方にはしたくない。
一見すると矛盾しているように見えるがこれで正しいのだ。
二人は今こそ称えたい。
彼女を起用する神谷学園の勇気と信頼を。
ミチルは警戒しつつも気負わないよう心掛けていた。
どんな選手なのか分からないが、古豪神谷学園の選手。
ただ者ではないはずだ。
おそらく一打席の間にまともに打てる球など来ないだろう。
僅かでもコントロールミスしたら、それを狙い打つ。
それを絶対に、見逃さない。
注目の絵美の投球。
変則的なフォームから白球が投じられる。
内角やや高めのかなり甘めのコースに。
ミチルは迷わなかった。
初球を引っ張り、ライト前ヒット。
特別手元で変化もしなければノビもない。
一言で言うならば平凡だった。
「……あれ?」
あまりに簡単に出たヒットに、打ったミチルと瀬名の方が首を傾げてしまった。
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