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ミチルの手には、先ほどの打った感触がまだ残っていた。
(こっちが驚くくらい平凡な球だった。力んで上擦ったのか?)
先発の圭織が厳しいコースばかりに投げていたのと比較すると、甘すぎる。
やはり代打がメインの選手だったのだろうか。
続く打者は四番の千穂。
この先頭打者を送るべきかどうか悩んでいた。
それは瀬名も同じだ。
初めて会った時から掴み所のない人だと思ったが、そのイメージそのままに彼女はマウンドに上がっていた。
(併殺で終わらせる為にあえて出塁を許した? いや、中盤とはいえ次の一点が大事な場面。抑えようとしたけど結果として打たれたならまだしも、最初からシングルヒットを打たせるなんて事はしないだろう)
瀬名は決断した。
まずは得点圏にランナーを進める事が大事。
ここは送りバントだ。
四番打者に送りバントのサイン。
かなり消極的に思えるかもしれないが、相手はまだ未知数。
アウトカウントを犠牲にしてでも得点圏にランナーを進める価値がある。
それが、四番打者だとしても。
もっとも、中橋学園において四番打者は一発長打のホームランバッターではなく繋ぐ為にチャンスメイクを行える繋ぎの四番の意味合いが強い。
千穂が初球からバントを決める。
勢いが殺された打球をキャッチャー奈々が一塁に送球して一死二塁。
そして飛距離だけならチーム一の育江が右打席に入る。
四番が送りバントをしてまで作ったこのチャンス。
活かさなければならない。
気合いが入りつつも冷静さは失わない。
絵美はまだ変化球を見せていないのだ。
手の内を隠した相手を前に油断など出来ない。
相手は右の変則フォーム。変化球でタイミングを外されないよう慎重に――
そう思っていた矢先の初球。
外角に大きく外れるスライダー。
当然ボール。
続く緩く落ちる球――チェンジアップ。右打者の胸元を抉るシュートと変化球が三球連続で外れボールスリー。
簡単に手の内を明かしてくれた。
四球目。
おそらく外角低めギリギリを通そうとしたカーブがワンバウンドするほど落ちすぎてボール。
全球種が外れてストレートの四球。
労せずランナーが増える。
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