第1話『高校野球はやりたくない』

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「大体よ、藤村って野球上手いのか?」 「さぁ、知らないよ」 全国制覇と言うからにはかなりの実力なのだろう。自己満足の域かは不明だが。 「少なくとも、僕には関係ないよ」 「だろうな。でもよ、あいつ、上級生の男子を片っ端から当たって、野球の経験があるかどうか聞いて回っているらしいぜ」 「僕は、経験無しって断るよ。高校野球がやりたくなくて、中橋を選んだんだから」 会話はそこで終わり、午後の授業になる。 野球は好きだけど、苦しいだけの野球は嫌い。 苦しい練習を乗り越えてこそ、野球は面白いと強く考えられている日本において、瀬名は稀有の存在だろう。 だが、それで構わない。自分で決めたことなのだから。 放課後。帰って自習でもと思っていた瀬名に、彼女が立ちはだかった。 「あ、あの~、藤村さん。そこに立たれると、僕、帰れないんだけど」 仁王立ちで軽く笑みを浮かべていた。 「ちょっと付き合って欲しいんだけど、時間あるかしら?」 「用事?」 「そう。体育で使った用具を片付けなきゃいけなかったんだけど、量が多くてさ。他の人はみんな塾やら部活だって言うし」 なるほど。それなら仕方ないだろう。 「良いよ。どうせ帰るだけだったし」 「ありがとう。じゃあ荷物置いて、体育館裏のグラウンドに来てね」 「分かったよ」 その時、瀬名は自らの迂濶さに気付いていなかった。 何故瀬名に頼んだのか。 何故藤村真琴は体育着姿だったのか。 そして、体育館裏のグラウンドには、何があったのか。 それに瀬名が気付いたのは、ノコノコ指定の場所にやって来てからだった。
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