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「大体よ、藤村って野球上手いのか?」
「さぁ、知らないよ」
全国制覇と言うからにはかなりの実力なのだろう。自己満足の域かは不明だが。
「少なくとも、僕には関係ないよ」
「だろうな。でもよ、あいつ、上級生の男子を片っ端から当たって、野球の経験があるかどうか聞いて回っているらしいぜ」
「僕は、経験無しって断るよ。高校野球がやりたくなくて、中橋を選んだんだから」
会話はそこで終わり、午後の授業になる。
野球は好きだけど、苦しいだけの野球は嫌い。
苦しい練習を乗り越えてこそ、野球は面白いと強く考えられている日本において、瀬名は稀有の存在だろう。
だが、それで構わない。自分で決めたことなのだから。
放課後。帰って自習でもと思っていた瀬名に、彼女が立ちはだかった。
「あ、あの~、藤村さん。そこに立たれると、僕、帰れないんだけど」
仁王立ちで軽く笑みを浮かべていた。
「ちょっと付き合って欲しいんだけど、時間あるかしら?」
「用事?」
「そう。体育で使った用具を片付けなきゃいけなかったんだけど、量が多くてさ。他の人はみんな塾やら部活だって言うし」
なるほど。それなら仕方ないだろう。
「良いよ。どうせ帰るだけだったし」
「ありがとう。じゃあ荷物置いて、体育館裏のグラウンドに来てね」
「分かったよ」
その時、瀬名は自らの迂濶さに気付いていなかった。
何故瀬名に頼んだのか。
何故藤村真琴は体育着姿だったのか。
そして、体育館裏のグラウンドには、何があったのか。
それに瀬名が気付いたのは、ノコノコ指定の場所にやって来てからだった。
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