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「中嶋ちゃん、これ大至急20枚コピーよろしく。」
手渡されるプリント、くたびれたスーツの上司、大きな手、受けとるあたしの小さな手、頷くあたし。
「できたら課長によろしく。」
そう言って彼はまたデスクに座る。
コピー20枚、頭で何度も呟きながらコピー機に近付き、それを行う。
数を設定、そしてカラーのボタンを押すだけ。至極簡単な作業。でもこれもあたしの仕事の1つ、だからきっちりやらないと。
コピー機から出てくる紙を見つめながら少しぼけーっとする。
あ、冷蔵庫にプリンあったかな?昨日食べたような気がする。今日は帰りにコンビニよろっと。
やはり仕事の後のプリンは欠かせない、プリンは神!
なんて考えていると背後から肩を叩かれた。
はっとして振り返ると課長。まずった、コピーはとっくに終わっている。大至急と言われていた事を思いだす。パニックになりつつある頭を必死に動かしつつ頭を下げて排出されたプリントを渡す。
「考え事かい?」
課長のそんな言葉、首を横に振りながら頭を下げる。そしてポケットから取り出す厚紙の束。それは金具で纏められた言の葉の束。
課長に向けて手渡すそれに書かれた人工定型文には
━ごめんなさい。━
と、書いてある。
そう、あたしは生まれつき言葉を発する事が出来なかった。
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