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迫り来る恐怖感に震えながら僕は、次なる変化を迎えた。
またもや抗がん剤の副作用だ。
髪が大量に抜け始めた。
朝まで吐き気に苦しみ、昼まで寝て起きると、枕元には大量の髪が落ちていた。
え?
何これ?
と思い、鏡で見てみると髪が無い…
あれっ?
髪を触ると、また抜けた…
触る度に僕の髪は抜け落ちて行く。
そして、僕の髪の毛は完全に無くなった。
巡回に来た杏子は僕を見て、驚く事も無く
「治ったら、また生えてくるから今は我慢して頑張ろう」 と慰めてくれた。
僕は、泣きながら鏡を見て笑った…
悲しさと苦痛と髪が無くなった、不自然な自分の姿に動揺して、両方の感情が一気に溢れ出した。
その時、杏子が病室に来て、僕の持ち物袋に入れてあった帽子を僕に冠せてくれた。
初めて逢った時に杏子が買ってくれた帽子だ。
その時の帽子は今でも大切にしている。
僕が杏子に
「ありがとう。この帽子、懐かしいな。治ったら、またアメリカ村行こうね」
と言うと杏子は
「うん、絶対に行こう」
と言ってくれた。
苦しい中でも杏子はいつでも優しかった。
きっと杏子の中でも相当な葛藤があったはずだが、それを全く表に出そうとはしなかった。
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