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雲平は双子を見る。
「……」
静かな沈黙。
たまに雲平が咳をするだけで、どちらもしんと動かない。
「ありがとう」
沈黙を破り、葉は笑顔で雲平に手を差し出した。
ありがとう
そんな何気ない言葉は、雲平にとって初めてに感じられた言葉だった。
周りはいつも『期待』し『失望』していた。
当然、そんな自分に感謝する人はいなかった。
高校に入ってからは人と深く交わらないで、特に自分から何をするわけでもなかったから、当然感謝する人はいない。
「あ……うん」
素直に、雲平はその手に応じた。
それなのかもしれない。
『期待』される事を恐れながら、わざわざ部活に入って人と交わる機会を作ったのは。
いつか本当に自分が必要とされて、誰かにそう言って欲しかったのかもしれない。
「……あの」
それにしても、爽やかすぎる。
「なに?」
葉の笑顔がとても爽やかすぎる事に雲平は気付いた。
そして、握手に応じた手が放されない事にも。
「…放して下さい」
「やだ♪」
そしてもう片方の手も何者かに押さえられる。
『何者』も何も無い。
当然それは優だった。
「もうこれで、儚(ユメ)とオレたちは親友だよね」
「当然♪」
「いや、何で……」
しかし聞いてくれない。
何で突然親友なのか。
いつから打ち解けたのか。
いつの間にか葉たちが雲平の事を名前で『儚』と呼んでる事とか。
「てことで儚!」
「これに三人で出るよ♪」
両腕を固定されたまま、優は雲平の顔の前に一枚のポスターをつきつけた。
「これ……」
雲平は青ざめる。
病弱な体が危険信号を送っているのだが、どうやら逃げられない。
「ボクも…?」
「三人で♪」
葉は笑顔で答える。
「じゃあ儚、明日から頑張ろう!」
優は雲平の腕を引っ張るようにして歩きだす。
「おー!」
葉も逆から引っ張るように歩きだす。
「ゴホッ……帰りたい」
真ん中の雲平はなすがまま、二人に引っ張られるまま歩き出す。
その後毎日の双子の影響により、雲平の気苦労が増えた代わりに体が心なしか丈夫になっていくのは、また別のお話し。
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