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朱雀学院。
五年前に創設された新設校でありながら、生徒への自由度が高いのと、最新の設備に惹かれて人気校の仲間入りをしている高等学校。
そんな学校から徒歩約10分という通学路を歩きながら、似合わない悩ましげに歩く少年がいる。
この少年、武術家の祖父に育てられた一般人以上に強い事と体力があるだけの普通の男の子であった。
過去形なのは当然、それに当てはまらなくなった、普通ではない少年をさすのだが……いまはいいだろう。
とにかく、朱雀学院に通う少年――大空 鷹(オオゾラ タカ)は、最近ある悩みを抱えていた。
ガラガラと扉を開き、鷹は教室に入る。そうして、自らの席に向かうのだが――
「ぁ……」
隣りの席であるクラスメート。
この人物こそが、鷹の抱える最大の悩みの人物であった。
名前は烏丸 宿木(カラスマ ヤツギ)。
少女のような外見と、おどおどした性格によって勘違いしそうだが実は少年。
頭も良く、お金持ちらしい。
鷹と同じ、『風紀委員』――これの説明はまた後程――に所属する鷹の親友だ。
だが…だが、これは最近までの情報である。
とある学院で起こった事件を解決した際に、鷹は宿木が実は女の子だと知る。
いままでは女の子のようで実は男の子だったのだが、実は女の子……なんてまどろっこしいが、宿木は女の子。
それを知ってしまった。
「……ぉ、おはよう。鷹君」
意を決したように宿木は声を紡いで挨拶してくる。
入学当初を考えると、宿木が自分から挨拶してくるのは考えられない事だ。
いつもなら……
『よお、おはよう宿木!』
とか言いながら、背を叩く勢いで挨拶する鷹なのだが。
「おう……おはよ」
素っ気ない。
何とも素っ気ない挨拶を返して、逃げるように机に突っ伏してしまった。
最近の鷹の宿木に対する挨拶は、毎度こんなものだった。
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