接し方がわからない!

7/10
前へ
/63ページ
次へ
右拳を突き出す。 渾身の力を込めたつもりだったのだが、目の前の老人は腕をとる。 気付けば鷹は、天井を仰いでいた。 「雑念が多すぎる」 投げた張本人、鷲宮 源三郎(ワシミヤ ゲンザブロウ)はそう言い捨てた。体格も小さく、70を過ぎたのに未だに鷹が勝てない超人だ。 「雑念…か」 武道をしてもそれが出るか、と鷹は逃げたくなった。 「どうしたらいいんだ?」 天井に鷹は問いかける。 「悩む事は悪くない」 「え?」 「無心なんてモノは存在しない。悩む事は生きている限り必ずあるモノじゃからな。若いうちは特に……」 鷹は黙って鷲宮の言葉に耳を傾ける。 「だが考えるだけで解決する悩みなぞありはしない。 それに忘れとるようだな? お前の頭は考えて答えが出るほど出来はよくないだろうが」 鷲宮は小さく笑うと、立ち上がらない鷹を置いて道場から出て行く。 鷹はそのままじっと天井を見据え、いつしか自嘲の笑いをもらす。 「バカみてえ、俺」
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

148人が本棚に入れています
本棚に追加