追跡!初めての理解者

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「いたっ!?」 足に走った痛みに思わず声をあげて振り返る。 そこには胸元。それを辿って見上げると、前髪で顔はよく見えない。 マスクをつけた、どうにも顔色がよろしく見えない男子生徒が突っ立ってた。 「ゴホッ…ごめん。優君」 踏んづけた生徒は咳き込みながら、ボソボソと小さい声で謝って廊下側にいってしまった。 「ってえなぁ。たく」 去っていく薄い背中を睨みつけ、紀原 優(キハラ ユウ)は前に向き直す。 すると 「あれ?葉?」 目の前の自分と同じ顔の生徒、兄である紀原 葉(キハラ ヨウ)が、自分と同じつくりの顔をマヌケそうな顔に崩してるのに気付いた。 「どうした?」 「いま…さ」 葉の視線はどうやら先程足を踏んづけていった薄型の生徒を捉えてるよう。 「あの人なんて言った?」 小声の葉。 「はぁ?」 心底わからない、と優は顔をしかめる。 「なにって、謝ったんでしょ」 「違うよ。謝った後」 「後?」 優は頭の中でお経の際に聴くような木魚の音を感じる。 それが三度鳴らされて、優の記憶が蘇る。 「オレの名前だろ?」 そう言うと、葉はそのマヌケな顔のままじっと優を見る。 優も葉の思考を感じ取るようにじっとその瞳を見つめる。 二人が見つめあうこと五秒。 「あ……」 優も葉の思考を汲み取った。 「あーー!!」 「五月蝿いぞ、紀原」 「へ?」 振り返ると、教壇の上で眉をひくつかせる担任の姿があった。 「はーい、すみませーん」 煩いのはおまえだよ。 馬鹿にしきった返事をしつつ、視線で心の声を担任に叩きつけておく。 担任にもそれは伝わったらしく、一層強い睨みとわざとらしく大きい咳払いで返してきた。 そんな返答どこ吹く風。 優は葉の後ろにある、自分の席に座った。
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