追跡!初めての理解者

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うざい担任が教室から出ていくと、優はすぐさま前にある葉の席に駆け込んだ。 「なあなあ、聞き間違いじゃないよね?」 悪い事を話してるわけじゃないんだが、優は声を潜ませる。 「うん。聞き間違いじゃないね」 対応する葉も声を潜める。 二人は同じ顔を、同じく驚愕に染まる表情にして廊下側の一番後ろの席に座る、薄い雰囲気の生徒に注ぐ。 「なあ」 優は近くの男子を呼ぶ。 「あれって誰?」 「あれ?」 「あの廊下側の一番後ろの席の、マスクしてる奴」 男子は『あぁ』と返事をすると、廊下側のそいつに目を向けながら答える。 「雲平だろ?雲平 儚(クモヒラ ユメ)。 いっつも暗いし、なに話してんのか聞こえないし、なに考えてんのかもわかんねえし」 聞く限り、とりあえずこの男子はあれ――雲平 儚を嫌ってるのが感じられる。 「それにあいついつも体育休んでるな。あと、たしか化学部に入ってたと思うぞ」 「サンキュー」 男子に笑顔で礼を言うと、優はすぐさま葉に顔の向きを戻す。 雲平 儚。 確かに知らない。 クラスメートでありながら、雲平の存在を二人は微塵も知らなかった。 葉と優はよくやる悪戯でクラスのムードメーカーのような位置にいる。 そのおかげで先程のように担任にも目をつけられているのだが…… ともかく良い意味でも悪い意味でも二人は顔は広い。 ついこの間は、あの『風紀委員』と関わったほどだ。 そんな二人が知らないのだ。 二人はもう一度、雲平に目を向ける。真面目に次の授業の教科書を出している。 印象はとにかく暗い。 勤勉そうだし、暗そうだし、灰色のオーラでも見えてきそう。 二人にとってはうざい教師並みに苦手なタイプではあるのだが……。 「ちょっかいだしてみる?」 「とーぜん♪」 葉の提案に笑顔で頷く優。 苦手なタイプではあるのだが、二人にとっては放っておける筈もない人間だ。
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