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双子は『紀原』と呼ばれるのを嫌う。同様に、『貴方たち』とか『君たち』とかも嫌っている。
しかし双子はそう呼ばれても仕方ないとは理解している。
だって自分達の顔は自分達で見たって似ていると思う。
ならば他人がそれを判別出来るはずもない。
それでも、それでも双子は『個』を求める。
頭で理解していてもどうしようもなく自分は『葉』であると…自分は『優』であると主張する。
最近、風紀委員の『ある奴』が自分達を判別出来なくても名前で呼んでくれる。
双子にとってはそれだけでも嬉しい。
だから――
「くーもひーらくん♪」
優は雲平の席の正面に立ち、笑顔をつくる。
「ちょっとお話しいいかな~?」
雲平の左側に立ち、葉も優と同じ笑顔をつくる。
雲平はしばらくぼー、と二人の顔を見合わせた後、一つ咳き込む。
「ゴホッ…何?」
その返答に、双子は互いの顔を見合わてニヤリ。
そして同時のタイミングで雲平の顔をみる。
「「どっちが葉君だ??」」
声もバッチリに揃えて、いつだかと同じゲームを雲平に叩きつける。
双子の目は期待と熱望でキラキラと光っている。
「……」
雲平はしばらく黙る。
たまに咳き込みながら、鬱陶しい前髪から双子を見ている。
「あの、何故そんなことを?」
「いいからいいから」
葉は笑顔で押し切る。
雲平はまたしばらく黙ってから、のそりとした緩慢な動きで細っこい腕を持ち上げる。
そしてその細い人差し指が、左側に位置する方をさした。
「こっちでしょう?」
双子の目がこれ以上ないくらいの驚きに目が開かれる。
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