~そして現在~

5/5
前へ
/26ページ
次へ
取っ手をクルクルと動かして、車の窓を開ける。 今時手動なんて、珍しい。 心地よい風が、すうっと入ってくる。 ラジオはつけない。 CDは聴けない(ついていない) BGMは、野木の口笛。 …この空気が、好きだ。 「――…果穂」 BGMが途切れたかと思ったら、野木がこちらを見ていた。 馬鹿、前向いて運転しろっての。 「今日も快調だな♪」 「当たり前。私はプロなんだから」 そう、私は猫かぶりのプロ。 でも、そんな私でも適わない相手が、隣にいる。 「俺は果穂を飼い馴らすプロだからな!」 「…猫みたいに飼い馴らすとか言うな」 「ツンデレの態度が、普通と逆ってとこがまた――…」 「煩い。ツンデレじゃないし」 『嫌いな自分を隠すため』 そんな猫かぶりの法則は、私の中ではもう古い考えに変わった。 私はこれからも、ずっとミス猫かぶり。 素の自分も、猫をかぶった自分も、好きでいてくれるコイツがそばにいる限り――…… 「…悠太、もっとスピード出ないの?」 驚いた視線が向けられたのがわかった。 でも、振り向いてやるものか。 真っ赤になった顔を見せるのは、もう少し先の話。     ―終わり―
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加