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取っ手をクルクルと動かして、車の窓を開ける。
今時手動なんて、珍しい。
心地よい風が、すうっと入ってくる。
ラジオはつけない。
CDは聴けない(ついていない)
BGMは、野木の口笛。
…この空気が、好きだ。
「――…果穂」
BGMが途切れたかと思ったら、野木がこちらを見ていた。
馬鹿、前向いて運転しろっての。
「今日も快調だな♪」
「当たり前。私はプロなんだから」
そう、私は猫かぶりのプロ。
でも、そんな私でも適わない相手が、隣にいる。
「俺は果穂を飼い馴らすプロだからな!」
「…猫みたいに飼い馴らすとか言うな」
「ツンデレの態度が、普通と逆ってとこがまた――…」
「煩い。ツンデレじゃないし」
『嫌いな自分を隠すため』
そんな猫かぶりの法則は、私の中ではもう古い考えに変わった。
私はこれからも、ずっとミス猫かぶり。
素の自分も、猫をかぶった自分も、好きでいてくれるコイツがそばにいる限り――……
「…悠太、もっとスピード出ないの?」
驚いた視線が向けられたのがわかった。
でも、振り向いてやるものか。
真っ赤になった顔を見せるのは、もう少し先の話。
―終わり―
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