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まだ眠い。
今日の映画はエーコのリクエストのホラーものだ。
果たしてそれがカップルで観るのに相応しいかどうか・・・この際どうでも良かった。
ホラーなら全体的に暗くなるだろう。
絶叫や大袈裟な効果音もあるだろうが、線路脇の安アパートで鍛えた睡眠力の前では屁の突っ張りにもならないだろう。
俺にはそれだけの自信があった。
『よし。映画館で寝よう。』
エーコから電話を受けてから5分と経たない内にアパートの階段を下りながら、まだ降り止まぬ雨を見つめて呟いた。
ふと、郵便受けに目をやった俺はギョッとした。
そいつは居た。
郵便受けの上で何食わぬ顔で。
平然とした太々しい態度で。
丸々と太った三毛猫が・・・居た。
(うわっ・・・最悪だよ。)
俺は無意識に半袖のTシャツから出る両腕を擦っていた。
すでに鳥肌が、電柱に巻き付いている広告掲示防止の物体のように凸凹と浮き出していた。
(雨宿り・・・だよな?・・・動かない・・・よな?)
音を立てないように、そっと階段の最後の段を踏んだ時、
お約束のように雨水に濡れた階段を踏み外した。
『ガダンッ』
瞬時に猫に視線を向けた。
(逃げたか?)
が、そのデブ猫はまるで置物のように動かなかった。そして実にゆっくりと顔を俺に向けると、パカッと口を開けて・・・
『なっ!』
と、スタッカートの効いた声を発した。
『にゃーん』でも『なぁ~お』でも無く、『なっ!』と一音。
(な、何だ・・・こいつ?)
ただでさえ苦手なのに、こんな気味の悪い鳴き声をあげる猫なんて。
俺は遠回りを覚悟して、猫の居る郵便受けの前を通らずに駅前のミスドを目指すことにした。
(ふぅ、まだ時間はある。あんな猫の前を通るよりは少しぐらい歩いたって・・・んんん?)
競歩のように運ぶ俺の足に絡みついてくる物体が・・・
さっきのデブ猫だ。
『ぬおっ!』
思わず叫ぶとその場を飛び退いた。
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