2209人が本棚に入れています
本棚に追加
/255ページ
その病室は、まったくの静寂で満たされていた。
壁からシーツから棚にいたるまで、部屋のものは清潔感あふれる白で統一されている。
そしてその室内に、動きらしい動きは皆無といってよかった。
ベッドの中にいる人間は、数々の機器や装置などに繋がれており、目を閉じたまま身動きひとつしない。
時折、窓の外のイチョウの木からハラハラと葉が落ちることくらいが、この部屋の時間が止まっていないのを教えてくれる。
静かなノックが響いた。
憚(はばか)るようにドアがそろりと開き、普段と同じナース服に身を包んだ看護師が顔を見せた。
ミフネ
「三船さん」
ベッドの上の人間に呼びかけるが、返答はない。
そして、それはいつものことだった。
とりあえずの様子見と体調確認。
心拍数や血圧の数値を見て、異常がないことを確認すると、異常なしとカルテに書き込む。
それはつまり、起きる気配はないということでもある。
「ふう……」
軽く息をついて、看護師は来た時とおなじく、静かに病室を出ていく。
代わりばえがないと思っていた病人の人差し指がピクリと動き、まぶたが震えた。
最初のコメントを投稿しよう!