プロローグ

2/2
2209人が本棚に入れています
本棚に追加
/255ページ
  その病室は、まったくの静寂で満たされていた。 壁からシーツから棚にいたるまで、部屋のものは清潔感あふれる白で統一されている。 そしてその室内に、動きらしい動きは皆無といってよかった。 ベッドの中にいる人間は、数々の機器や装置などに繋がれており、目を閉じたまま身動きひとつしない。 時折、窓の外のイチョウの木からハラハラと葉が落ちることくらいが、この部屋の時間が止まっていないのを教えてくれる。 静かなノックが響いた。 憚(はばか)るようにドアがそろりと開き、普段と同じナース服に身を包んだ看護師が顔を見せた。  ミフネ 「三船さん」 ベッドの上の人間に呼びかけるが、返答はない。 そして、それはいつものことだった。 とりあえずの様子見と体調確認。 心拍数や血圧の数値を見て、異常がないことを確認すると、異常なしとカルテに書き込む。 それはつまり、起きる気配はないということでもある。 「ふう……」 軽く息をついて、看護師は来た時とおなじく、静かに病室を出ていく。 代わりばえがないと思っていた病人の人差し指がピクリと動き、まぶたが震えた。  
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!