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 ベランダには一応屋根がついているので雨を防げるけれど、横殴りの雨だからかわずかに吹き込んでいた。少し濡れるかもしれないが、少しくらいなら気にもならない。  ベランダの柵に軽く両手を添えて、半分以上が水没している校庭に視線を向けた時。  ふいに、男子生徒の後ろ姿が視界に飛び込んできた。  しばらく見つめてぴんとくる。それはクラスメイトの藤崎(ふじさき)だった。  色素の薄い茶色がかった髪、細っこい体躯。彼の歩き方には特徴がある。少し猫背で足をずるようにして歩くのだ。だから、距離が遠くて後ろ姿しか見えなくても、誰だか認識することができた。  雨が降っているのに、藤崎は傘をさしていない。校庭の真ん中辺りを長袖のワイシャツ姿のまま、まるで路頭に迷った子供のようにずぶぬれで歩いている。  あのままでは風邪を引いてしまう。  私はとっさに身を乗り出して名前を呼ぼうとしたが、それは別の声によって遮られた。 「――直(なお)っ!」  甲高い女の声が彼の名を呼んだ。  藤崎を追っていた目を、手前へと移す。  玄関口から、女生徒が飛び出してきた。
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