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その女生徒は、灰色の景色の中ではあまりに場違いな真っ赤な傘を掲げ、茶色いローファーを履いていた。
「待ってよ直!」
彼女は藤崎に走り寄り、持っていた傘を藤崎の頭上に掲げた。
顔が見えずそれが誰だかはわからなかったが、藤崎の彼女なのだろう。その存在に拍子抜けしてしまった。
なんだ、傘あるのかよ。
真っ赤な傘の下、二人の足跡が綺麗に並んで残されていく。
その時ふと、藤崎が振り向いた。二階のベランダに立つ私を、偶然にも彼は見つけた。
藤崎と目を合わせたのは多分この時が初めてだ。それはほんの数秒ほどだったが、その時感じた説明のつかない感情(もの)を、私は今でも覚えている。
私の中で藤崎の姿がある人物と重なり、幼い頃の記憶がフラッシュバックした。
――失ったものの代わりになろうと必死で努めた、あの無垢で純粋な、それでいて愚かな『ままごと遊び』を、彼は私に鮮明に思い出させたのだ。
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