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「彼女なら、総司を変えてやることが出来るかもしれない。」
沖田を心配するような近藤の言葉。
彼は部屋の襖を開けて土方に背を向け、言葉を続ける。
「俺は、総司は何処か命を軽んじている節があると思っている。自分の命も他人の命もだ。」
そう言う近藤は子を思う親のような顔で、土方へ顔を向け笑った。
「…変えてやりたいんだ、あいつを。」
その頃、詩季は着替えを終え道場で沖田と対峙していた。
審判役の土方はまだ部屋で話し中であり、本来ならまだ試合をする時間ではない。
だが道場内の緊張感に満ちた空気に耐えかね、勝手に試合を始めようとしていたのだ。
「…土方さんが来ないなら、始めちゃっても良いですよね。入隊希望の北神詩季と申します、本日は宜しくお願いします。」
「副長助勤の沖田総司と申します。こちらこそ宜しくお願いしますね。あ、号令はどうしますか?」
はっと気づいたように沖田は辺りを見回す。
試合を始めようにも審判がいない為号令が掛けられないのだ。
「それなら俺がやろう。」
沖田の言葉に名乗りを上げたのが一人。
彼と同じく副長助勤の永倉新八である。
永倉は審判の位置まで移動すると、確認するように二人に問う。
「これは入隊試験で、北神が総司から一本取ったら勝ちだな。…まぁ、お互い殺さないようにな。特に総司。」
じとっとした目で見られる沖田はそんなことを気にはしていないようで楽しそうな笑みを浮かべている。
「準備は良いな?それでは…始め!」
永倉の号令の直後、沖田は先に仕掛けた。
それに気付いたのか詩季も動き、竹刀の乾いた音が響く。
「あれ、受け止められちゃいましたか。珍しいですねぇ。」
沖田の楽しげな笑みが深くなった次の瞬間、沖田が続けて仕掛けた。
彼は正確に詩季の首元を狙う。
しかしその竹刀が届く一瞬の間に詩季は彼の竹刀を弾き、彼の首元に己の竹刀を突き付けた。
「私の勝ち、ですね。」
くすっと笑う彼女に、周りの者たちは彼女が勝ったことをやっと理解した。
そして詩季は入口の方へと静かに問いかけた。
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