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「入隊決定でいいですよね、近藤さん?」
彼女の目線の先には、道場の入り口で試合の様子を見ていた近藤。
近藤は詩季の問いに答えず中へと入ると、小さく頷きを返す。
「ああ、先程約束したからね。」
そして一旦言葉を区切り、道場内の全隊士に聞こえるよう大きな声で次の言葉を紡いだ。
「今からこの壬生浪士組の仲間になる北神詩季君だ。剣の腕は君たちの目で見てもらった通りだ。それでは北神君、一言挨拶を。」
詩季に挨拶を促し、彼女は一つ頷いた。
「初めまして、北神詩季と申します。右も左もわからない不束者ですが、皆様どうぞ宜しくお願い致します。」
隊士たちを真っ直ぐ見て、彼女は深く頭を下げる。
その様子を沖田は一人無表情で見ていた。
彼の脳内に巡るは先程の入隊試合のこと。
(彼は入ったばかりの他の新入隊士よりも力がない。それに力の無さを速さで補う節もあった。まさか彼は…)
試合の様子を見ていただけでは判らなかったが、戦ったからこそ分かる。
詩季の腕力は男にしては弱い。
彼女が男ならばもっと力強く、受けた剣も重く感じるはず。
だが沖田が感じた剣は重さよりも速さを重視する剣。
それが意味するところは、詩季が女であるという事実のみ。
(近藤さんたちは北神さんの性別に気付いていないのか?いや、それはあり得ない。近藤さんだけならともかく、土方さんが気付かないはずがない。ということはこれを知っているのは二人だけということになる。でも何で私に教えてくれないんだろう…。)
近藤を慕って上洛してきた沖田にとって、自分だけ仲間外れというのは納得がいかない。
その膨れっ面を見てくすりと近藤は笑う。
「総司、そんな顔をしてる暇があったら早く着替えてこい。着替え終わったら北神君と一緒に俺の部屋に来てくれ。」
近藤はそう言い終わると、解散するように指示を残し部屋を出て行った。
それに続き、ぞろぞろと隊士たちは道場を後にするのだった。
そして場所は変わり、局長室。
「近藤さん、私です。失礼します。」
襖越しに声を掛け、沖田と詩季の二人は中に入る。
「早かったな。とりあえず座ってくれ。」
そう言って近藤は二人に座るよう促す。
二人が座り終えると、彼は沖田に向かって口を開く。
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