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「しかし君は女性だ。君に人を斬る程の力なんかないだろう?」
心配するような近藤の声。
詩季にとっては彼の言葉は自分を否定しているようなもの。
それを振り払うかのように、詩季は笑みを浮かべると言葉を紡いだ。
「斬れますよ、人なんて簡単に。昨日この組の門番が死んだしょう?あの人、私が殺したんです。昔からの友人ですが、ある方の依頼で暗殺しました。」
淡々と事実だけを述べる彼女の瞳は冷え切って、その瞳には感情を感じさせない。
冷たい空気が流れる中、土方が静かに告げる。
「俺からも一つ良いか。北神に近藤さんのその言葉は通じねぇ。俺はこいつが江戸に来た時、一回だけ手合わせをしたんだ。途中から雨が降ってきて勝負は付かなかったが手強かったぜ。」
当時を思い出したのか、土方は悔しそうに顔を歪める。
「あの時は私も悔しかったです。久しぶりに知らない強い人と戦えると思ったのに、決着が付かなかっただなんて残念です。」
「なら、あの時の勝負に決着をつけることにするか。」
思いついたような土方の言葉に、詩季は戸惑う。
「俺と戦う訳じゃねぇが、沖田総司って言うここの隊士と試合をして貰う。そいつに勝ったらお前の入隊を許可しよう。だが負けた場合は女中として働け。どうだ?」
詩季の瞳を真っ直ぐに見詰め、土方は問う。
試合に勝てば隊士、負ければ女中というある意味博打な提案に、彼女は心の中で笑った。
(判りやすくて…面白い。)
「その勝負、乗ります。」
少し笑みを刻んで頷けば、近藤が言葉を発する。
「そうか。ちょっと俺達は用があるので道場まで案内することが出来ないが、廊下に出れば稽古の声が聞こえてくるだろう。そこが道場だ。服は持っているかい?」
「はい。それでは用意してきますね。」
そう言うと、詩季は二人に一礼して部屋を出た。
彼女が出て行った方を見ながら土方が呟く。
「あいつ、総司に勝てると思うか?」
「…それは俺にもわからんが、勝って欲しいとは思う。」
自分の横にある刀を持ち、立ち上がりながら近藤は言う。
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