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7月
「…という訳だ。来週からの試験、しっかり勉強をするように。特に運動部、練習にかこつけて赤点取ったら部活動参加禁止にするから覚悟するように。」
味気ない担任の忠告を聞き終え、帰りのHRが終わる。
「あぁきぃなぁぁぁ…」
体ごと明菜に振り返った加純が甘えた声を出す。
「なんじゃ」
「あぁきぃなぁぁぁぁ…。テスト勉強、しよ?っていうか教えてお願いぃぃぁああ!!」
「分かった分かった。」
明菜は加純に甘い。明菜は日頃から彼女は甘え上手なんだと思う。その甘えを男子に出せば良いのに、加純は好きな人の前に行くと逆に突っ張るらしい。
「アキ。」
教室の前扉から声をかけられた。
「うゎぉ!!明菜だぁりん!」
加純が先に反応する。
「ちょっと良い?」
「どうぞどうぞ。」
「何で加純が楽しそうなんですか?」
やっと口を開いた明菜が言うも、加純は気にもとめない。
「ま、行ってらっさぁい」
ひらひらと手を振りながらにんまりとした笑顔で明菜を送り出す。
黙って先に歩く隆の後をついていくと彼は進路指導室で足を止め、中に入った。明菜も続く。
「どうかしたの?」
隆は学校でもあまり声をかけてこない。その彼がわざわざこんな人気のないところまで連れてくるのには何か理由があると明菜は察知していた。
「明日、時間あるか?」
窓際まで行った隆は背を向けたまま話始めた。
明菜は近くの席に着いた。椅子をひく音が指導室に響く。
「ん?大丈夫だと思うよ。でも加純が勉強教えてくれって言うかも。どうしたの?珍しいね。」
「…買い物、付き合ってくれないかな」
明菜の顔がほころぶ。
「なんだ、買い物行きたかったの~?こんなところまで連れてくるから何か重大発表があるのかと思ったよ。」
声をたてて笑う。
隆がやっと振り向く。
「だって教室でなんて誘えないだろ」
「そんなことないよぉ」
「俺が恥ずかしいの」
「それはそれは、失礼しました」
高校入学から付き合い始めて2年だが、実は小学5年生の頃から明菜に片想いをしていた隆はまだ気恥ずかしさが取れない。
告白は隆からした。一生分の勇気を使った気がした。答えを聞くのが怖かったが、明菜は静かに頷いた。それがOKの意味だった。
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