7月下旬

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「んッ…隆…」  唇が離れる少しの間に明菜がくぐもった声で名を呼ぶ。  隆が突如、明菜を解放する。  完全に意識が目覚めた明菜は、呼吸が乱れたまま目の前の男を艶っぽい瞳で見上げる。 「ずるいデスネ、明菜サン」  沈黙を切った隆の息もまた少し乱れている。 「ずるいデスネ、隆サン」 「何がデスカ?」 「何がデスカ?」 ―――沈黙  隆がまた覆い被さる。だが、今度は強引さがなく、包み込む様な優しさだった。 「明菜サン、そんな目をしないで下サイ」  明菜の左耳近くの空気が熱い。それだけで女の性が目を覚ますのを明菜は感じていた。 「どんな目をしてマスカ?」  今度は耳に直接唇をつけて男が挑発する。 「色っぽい目デスヨ」  体を微かに震えさせ、明菜が答える。 「そんなつもりはないんデス…ガ」 「良い…デスカ?」 「ん…、ダメ。お姉ちゃんもいるし」  天井を見たまま答える。 「大丈夫だよ。声、出すな」  言い終わらない内にブラウスのボタンを外す。 「あっ…!やだ、、やだってば!!」  抵抗する力も言葉も隆の熱い唇で塞がれ呆気なく崩れていく。  大きな手がブラウスの裾をはだけ、素肌に触れながら少しずつ上に上がってくる。明菜はじっと神経を集中させていた。自分でも恥ずかしいくらいに鼓動が速い。     あと少し…  あと少しでというところで隆が手を離した。その手を明菜の目尻に持っていく。  明菜は静かに泣いていた。  だが、気が付かれまいと懸命に堪えていた涙は、隆が拭った拍子に次々と流れ落ち、頬を伝い髪に染み込んでいった。  何とか耐えようと思っても嗚咽が止まらない。 「っ…!ゴメッ…ゴメンナサイ…ッ」  隆は一度きつく目を閉じ、そのまま明菜を抱き締めた。 「…ゴメンな。怖かったか?」 「…っく…ッ。うう…ん。」  隆は言葉に出来ない気持ちの曇りを感じた。だがその想いを打ち消すかの様に、ひたすら泣く目の前の愛しい明菜を抱き締めることしか出来ない自分を恨んでいた。  ―――二人がそれぞれの不安を抱えて夏に突入していく
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