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そうなのだ。インターハイだ。全国から我こそはと選手が一堂に介する闘いだ。
一紘に言われるのも当然だと隆は気が付いた。
「彼女のことでタイムに影響があるなんて、オレだったら絶対ないと思うンすケド…」
1年の俊文(としふみ)が目も合わさず道場に入ってきた。
「おい」
一紘がたしなめるのも感じないかの様に俊文は言葉を続ける。
「仮にも俺だったら逆にエネルギーにしますけどね。あ、断られた。それじゃあ全国トップになってからにしよう。とか」
隆は黙っている。
「アキナさん…でしたよね。隆サン、このまんまじゃボケボケした成績残すみたいだし、そしたらアキナさんも可哀想だし、俺がアタックしに行って良いっすか?」
「おい…!」
一紘が開きかけた口を隆が静かな声で遮る。
「トシ。お前にアキは似合わねぇよ。アキは人の心が分かる奴が好きなんだ。だからアキはタイムが良いからとかで簡単に気持ちが変わる奴じゃない。」
「ふ~ん。んじゃ聞きますケド、隆サンは今アキナさんがどんな気持ちか分かるンすか?」
隆が言葉に詰まる。
「すんません、オレ、疲れたんで先に風呂行ってきます。」
俊文が道場を出るのを一紘がじっと睨めつける。出て行ったのを確認してから隆に向き直る。
「隆さぁ、、」
「分かってるよ。全ては結果だ。結果を求められるのを覚悟で陸上部に入ったんだ。わかってるさ。」
「いや、そうじゃなくてさ…」
「?」
「…んまぁ、怪我とかしないように気をつけろよ、色々と。な?」
一紘の中に感じた嫌な予感を話そうとしたのだが、今言うと余計にコンディションに影響が出るかも知れないと考え、咄嗟に『色々』と言葉を変えた。
『…コイツ、わかってんのか?明菜チャン、狙われてんぞ…』
「さて、カズ。今からひとっ走り、付き合わないか?」
携帯電話を閉じ、首を回しながら隆が言う。
「いいぜ。」
自分の上半身をほぐしながら二人は道場を出ていった。
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