6月

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(そんなもんかねぇ…。) と思いつつ、どちらともなく帰る支度を始める。 「あれ、今日の明菜だぁりんは?」 「部活でございます」 「そっかぁ、インハイのホープだもんねぇ」  教室を後にする。時間が遅いからか他に人はまばらで靴音が静かに響く。  グランドの脇道を歩きながらふとトラックに視線を向ける。  ――隆がいた。  中学生の頃から陸上部に入部した隆はやはり高校でもトラックに立っていた。  二人が通う高校は大会などで運動部が良い成績を残すことで有名だが、バトミントン部、バスケット部、陸上部が大抵記録を塗り替えて凱旋するのが一種当たり前の様な世界だった。その為に選手には実力は大前提として更に並外れた強靭な精神力も求められる。  隆はそれでもトラックに立つ事を選んだ。 「俺がアキを全国に連れてってやるからアキはしっかり俺を応援してくれよ。」  入学式の日、生徒がごったがえしている校庭を見つめながら言った隆の瞳を明菜は今でも忘れていなかった。 (あれからもう2年か…) 「種目は何だっけ?」  加純の声に現実に戻る。 「短距離と障害物。あとリレー。」 「速いの?」 「中学の時は学内2番目だったよ。」 「ふぅ~ん…」  学内1番は隆の親友でもある大樹(だいき)だった。彼は隆よりも少し背が高く、タイムもいつも隆よりほんの少し良く、そして女子に人気があった。だが、女子と楽しそうに話をしている姿なんて見たことがない。と、いつか隆が教えてくれたことがあった。  そんな彼は中学卒業と同時に陸上の世界からも卒業をした。高校からのスカウトも来ていたらしいが、彼は最後まで首を縦に振ることはなかった様だ。今はどこにいるのかさえ明菜は知らない。 「あれ、隆クンにらぶらぶ視線は~?」 (全く…。加純が言うと何かいやらしく聞こえるなぁ。) 「練習中ですから。」 「クールな彼女だねぇ。」 「…そうですかねぇ。」  正門で加純と別れる。  しばらく歩いてふと空を見た。 (雲が高いな。…もう、夏がくる。)  鞄を肩にかけ直して家路につく。
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