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初めて明菜に出会ったのは小学生の頃で、彼女は既に両親を亡くしていた。その彼女をからかうクラスメイトがいた。明菜は何を言われても決して涙を見せず、黙ってその時を耐えていた。
隆はいてもたってもいられず、酷い言葉を投げかけたクラスメイトとケンカもした。好きな女の子を守るにはそれしか考えつかなかった。
だが、香織という姉が実際には大人として守っていたのかと後から知った時に、自分も早く大人になりたいと願った。
元から走る事が好きだったこともあったが、強くなって守っていきたい想いから隆はずっと走ってきた。自分に自信をつける為でもあった。
明菜は多くは話さない。それが逆に不安にも思っていることを彼は誰にも言う事が出来なかった。
明菜がゆっくり近づき、優しく抱きついてきた。丁度頭一つ分違う身長。隆の中に明菜の甘い香りが入ってくる。
隆も応える様に腕を回した。
華奢な体なのにふわりと柔らかい。男にはない柔らかさに隆の心の何かがゆっくりと目を覚ます。
――愛しい。
腕に力を入れた。
「…っん」
明菜が声を洩らす。
「…あ、ごめん。苦しい?」
「ううん。大丈夫よ」
腕を弛めると明菜が静かに微笑みながら隆を見上げた。
「…ところで。誰か来たりしないんでしょうか?」
いたずらっぽい目をして小声で明菜が話す。
「来たらどうしますか?明菜サン」
「隆サンはどうされますか?」
「うむ…。明菜サンが具合が悪いと言ったので支えていました。と言う。」
見つめ合って笑った。
自然に唇が重なる。
また抱きつき合う。
「夏、花火大会行こうな。」
「ん。」
胸元に耳を押し付けた明菜は隆の声が響くのを感じていた。
「浴衣着て来てくれる?」
「ん。…あ、リンゴ飴食べたい。」
「明菜サンは花火より色気より食い気ですネ」
「そんな隆サンは何が食べたいンですか?」
「そうだなぁ…焼きそばかな」
そこまで言ってまた顔を見合わせる。
「俺もアキの事は言えないっか」
「そうね。」
明菜は穏やかに笑った。
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