6月

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6月

 ――忘れもしない小雨の降る夕方。  明菜は初めて隆と結ばれた。中学校卒業と同時に隆から告白され、その時から始まった恋が一つ階段を上った高校3年の時だった。  高校生にもなるといくら恥ずかしがっても、友人達が経験談を聞けとばかりに勝手に話をしてくる。そうなると嫌でも想像したり、変な知識ばかりが先行していく。  だが、明菜は正直言ってそこまで男性と関係を持つのに興味が持てなかった。それよりも自分の将来を考えている方が数段楽しく、また自分を満たせることが出来ていた。そんなだからか、隆と唇すら触れたことがなく高校に進学した。  特に裏を合わせた訳でもないのに、希望校が隆と同じで入学してみたらクラスまで1年、2年と共にすることになり、正直明菜は気持ちが重かった。 「明菜ぁ、、あたしゃ彼氏が欲しいぜぃ…」  掃除も終わった放課後、明菜の前の席に座った加純(かすみ)が明菜の席にうつ伏して溜め息をついた。加純は高校入学から知り合った、ショートカットの活発的な子だ。控え目な小さい黒バラのピアスが不思議な存在感を出している。 「なんじゃそりゃ。」 「だってもう2年になってクラス替えして2ヶ月だぞぃ…。もうすぐ夏休みというバカンスがくるのに、だぁりんがいないとは…。」 「気になる男子、いないの?」 「…うにゅ。おらん」 「じゃあ見つけなはれ。」 「明菜は隆クンがいるから余裕綽々だぁ~…憎い。」  加純が手足をバタつかせて駄々っ子の様な仕草をする。 「…そぉかね~」  手に顎を乗せてグランドの方を見る。放課後は様々な部活動が混在していて、正直やりづらそうだ。 「っていうかさぁ、もう隆クンとは…。」 「何をニヤケているのですか。」  わざと棒読みで返す。 「シレっとしちゃってぇ!で?」  その大きな瞳を少しは男子に向けてみれば良いのにと思いつつ、平然と答える。 「まだキスだけです。」 「いついつ?」 「2ヶ月くらい前」 「…いやだったの?…何か今の明菜の顔、思い出したくもなさ気に見えるんだけど。」 「…いや…、だったかなぁ。私はしたいと思わなかったから、正直嬉しくなかったかも。どっちかっていうとビックリって感じ。」 「このワガママめ。そんなんじゃ誰かに持ってかれるぞ。」 「…持ってかれたらどう思うのかねぇ、私…。」 「うん、一度持ってかれて痛い目にあった方が良さ気がするぞぃ、あたしゃ…」
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