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空襲警報が鳴り響いて世界が幸、不幸と真っ二つに割れた。爆音が遠くの方で鳴っている。地を響かせるような衝撃。開けた原っぱの中央道を進んでいるので、遥か彼方で爆弾が落ちて行く様子が明確に確認出来る。真っ黒な空からダイヤモンドのような雨粒がこれでもか、これでもかと落ちてくる。雷鳴とおぼしき爆音がわたしに自然帰化を強要。やはり世界は真っ二つに引き裂かれた。 道端に洪水のように溢れるダイヤモンドを拾って、生計を立てて行けれたら愉快だろう。そんな小心者が持つような願望を抱きながら走らせる。とにかく生きてわが家まで帰りたい。どうにか無事で辿り着けますように。 グオーンバシャシャ。雷鳴が頭上を舞うB29をほうふつさせた。世界がこのまま終わってしまうのではないかと思われた。信号はヒートアップし消えている。道路脇の電灯も消えている。車はなおいっそう徐行運転をしていた。脇道のどぶからは汚水が溢れるばかりに吹き出している。世界はまさに真っ暗闇だ。 札束をなめて、指を折りながら金銭を数えるような嫌らしさがわたしの頭の中に消えては浮かぶ。札束もこの世界では燃えかすだ。何度も雷が墜ちる。爆音が身を凍らせる。鬼のような雨はわたしの体温を奪い去る。時代は尻切れとんぼのようにこの天変地異で真っ二つに切り裂かれてしまう。闇。真っ先は闇のみ。だがわたしは生きるために二輪をこがなければならない。実験室のハムスターではないだろうか。生きようとするだけでも滑稽なピエロ。気が狂ったピエロ。ハムスターは生きるために気が狂ったようにこぎつづけた。 死体が放置去れている。虫けらのように切り裂かれている。焦げ臭い死臭を放つ。洪水に流されている女の死体も見える。生きて帰らなければ。目先が降りしきる爆弾の雨で見えない。とにかくそっちだ。動物的勘で突き進む。 果たして人間は「お国」のために死ねるのだろうか。
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