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PM 11:27
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夏にしては珍しくよく澄んでいる夜空が、月明かりをより一層際立たせている。昼の様に明るい夜だ。
海面が月光を反射し、最低限の外灯しかない古びた倉庫が建ち並ぶ港に明かりをもたらす。
夜中にも関わらず、大きな倉庫の前に置かれたフォークリフトの影に一人の男が潜んでいた。
男の名は倉木一博。
彼は今から行われる“ストリート鬼ごっこ”の開始時刻を、今や遅しと待ち構えていた。
季節が夏という事もあるが、涼しい海風が絶え間なく吹く港に倉木の服装である、黒のTシャツにブルージーンズは肌寒く思える。
案の定、風に体温を奪われて体が冷えてきた倉木は「まだかな」と体を擦りながら呟いた。
そのとき、手に持っていた携帯電話のバイブレータが鳴る。
倉木は即座に相手の名前を確認し、通話ボタンを押した。
「俺だ」
『待たせた、今送る』
電話をかけてきたのは、倉木が所属するストリート鬼ごっこチーム「チルドレン・プレイ」のリーダー、赤坂祐治。
『倉木、今日は捕まるなよ』
赤坂の声に重なって、パソコンのキーボードを数回叩く音が聞こえる。
倉木は「わかってるよ」と返し、すぐに通話を切った。
その数秒後、画像がメールで届く。
送られてきた添付画像を開くとそこには、今から行われる鬼ごっこの制限行動範囲“フィールド”が記された地図が表示された。
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