180人が本棚に入れています
本棚に追加
それをしばらく眺めたあと、安堵の笑みを浮かべた。
「ここなら見付からねぇだろ……」
倉木は携帯を閉じるとジーンズの右ポケットに電話を仕舞い、次に左ポケットからタバコとライターを取る。
彼がストリート鬼ごっこを始める前に必ず吸う、言わば、げん担ぎなのだ。
体に染み付いたその習慣は、無意識のうちにタバコを口に運んでいた。
海風に消されぬよう、ライターの火を空いた手で覆う。
火を点けて一吸いした時、目の前に作業着を着た男がスッと現れた。
倉木は驚き、慌ててタバコの火を地面に押し消して身を潜めた。
作業着の男はそこで立ち止まり、誰かを探す様に辺りを見渡し始める。
男を警戒し、倉木が身構えた。
間違いない、敵だ……。
だが、男は吸っていたタバコを地面に落とすと靴のかかとで踏み潰し、立ち去っていった。
「……なんだよ」
出鼻を挫かれた倉木は、再びタバコを吸おうした……が、箱の中は不運にも空だった。
「マジかよ、最後の一服が……」
短く切り揃えた髪を掻きむしり、自分の行動に後悔した。
「買いに行く時間もねぇし……」
最初のコメントを投稿しよう!