No.1-〔大人の……〕

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  顔は見えないが、視線は対峙する倉木へと注がれている。 男はジャケットのポケットから、警察の特殊部隊などが無線通信に使用するブルートゥースを取り出し、慣れた手付きで耳に付けた。 そして続けざまに、倉木の後ろを指差す。 倉木が恐る恐る振り返ると、工場を囲むフェンスに人影が写った。 「挟まれたか……」 即座に頭を巡らせて逃走経路を思考した時だった。 それを邪魔するかの様に倉木の携帯電話に着信が入った。 「誰だ、こんなときに」 帽子の男は倉木のポケットに入っている携帯電話のバイブレータの音に気付くと、手で電話の形を模しておもむろに耳にあてる。 出ていいぞ――という合図だ、と倉木は解釈した。 電話を出してサブディスプレイを見ると、非通知着信だった。 怪しげに思うも、通話ボタンを押す。 「誰だ?」 『逃げ切りたいか?』 男の落ち着いた声が、突然問いかけてくる。 「なんだと?」 『そこから逃げ切りたいなら、俺をチームに入れてくれ。逃走ルートを教える』 思いもよらないその言葉に困惑する倉木。 「な、何とかなる。大丈夫だ」  
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