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顔は見えないが、視線は対峙する倉木へと注がれている。
男はジャケットのポケットから、警察の特殊部隊などが無線通信に使用するブルートゥースを取り出し、慣れた手付きで耳に付けた。
そして続けざまに、倉木の後ろを指差す。
倉木が恐る恐る振り返ると、工場を囲むフェンスに人影が写った。
「挟まれたか……」
即座に頭を巡らせて逃走経路を思考した時だった。
それを邪魔するかの様に倉木の携帯電話に着信が入った。
「誰だ、こんなときに」
帽子の男は倉木のポケットに入っている携帯電話のバイブレータの音に気付くと、手で電話の形を模しておもむろに耳にあてる。
出ていいぞ――という合図だ、と倉木は解釈した。
電話を出してサブディスプレイを見ると、非通知着信だった。
怪しげに思うも、通話ボタンを押す。
「誰だ?」
『逃げ切りたいか?』
男の落ち着いた声が、突然問いかけてくる。
「なんだと?」
『そこから逃げ切りたいなら、俺をチームに入れてくれ。逃走ルートを教える』
思いもよらないその言葉に困惑する倉木。
「な、何とかなる。大丈夫だ」
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