No.1-〔大人の……〕

8/23
前へ
/88ページ
次へ
  『麻生だ』 「よし、麻生。頼むぞ」 『速やかに運搬車の荷台へ登れ、次に……』 この会話は、帽子の男にも流れていた。 耳に取り付けたイヤホンが通話を受信しているのだ。 それを聞きながら、男は不敵な笑みを浮かべている。 『……以上だ。行け』 「了解だ」 倉木は素早く通話を切る。 そして似瀬を一瞥すると、普通車に向かって走り出した。 反応が遅れた似瀬の遥か横を通り過ぎ、スピードを緩めず車に飛び乗る。 ボンネットから屋根に登り、運搬車の荷台のコンテナへ手を掛けると、勢いをそのままに一気に片足をかける。 コンテナの屋根に上がると、後ろを振り返る。 似瀬は倉木の運動神経に唖然としながらも、自らもボンネットに上がってくるのが見えた。 似瀬がコンテナへ手をかけようと倉木から目を離した瞬間、倉木はコンテナの反対側に飛び降りた。 コンテナに乗ったのは似瀬を寄せ付け、巻くためだったのだ。 顔を上げた似瀬は、姿を消した倉木に困惑する。 「えっ……」 似瀬は巻いたが、まだ二人の追っ手が居るため、このまま逃げきれそうにない。  
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

180人が本棚に入れています
本棚に追加