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走る。走る。走る。 どこへ? どこだっていいさ。人間のいない場所なら、暗くて静かな場所なら。 走る。走る。走る。 どうして? 走りたいからさ。走らないと駄目だからさ。 走る。走る。走る。 全身傷だらけなのに? そうさ。傷だらけなのにだ。 もう足も腰もガタガタさ。上手く言う事をきかない。走るのがやっとだ。 だがここで止まってはいけない。出来るだけ遠くに行くのさ。 どこまで行けるかなんて分からない、白髪だらけの毛を奮わせながら全力で走るのさ。 ああ、あの柿の木が見える塀にすら登れなくなった。 ああ、そうだ。おれはあいつを植えられた頃に拾われた。 ああ、随分長い間だ。あいつと共におれは育って来たんだ。 覚えているさ。 アンタは顔をしわくちゃにしながら、盆栽をいじった汚い手でおれに触れた。 覚えているさ。 おれがその汚い手を引っ掻いているのにも関わらず、垂れたままの目尻のしわ。 覚えているさ。 それから逃れようと必死にもがいたおれを抱きしめたその両腕の暖かさ。 覚えているんだ。 ―――泣かないで、と呟いたアンタの言葉。 泣くもんか、泣くもんか! おれは猫だ。猫なのさ。決まっているんだ。 猫は、猫はな。 走れ。 走れ。 おれ。 走れ! どうしてだよ、走りたいんだよ、走らせろよ、動けよ、足。 おれの足、動けよ、力一杯いつものように自由に飛べよ。 走れ、走れ!最後の力を振り絞って走れ!!
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