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月の光が届かない夜。
この街で一番高い建物の屋上に、妖しい影が佇んでいた。
「…覚醒したよ。今はジルフェルと一緒に居るみたいだね。力は制御されてるから大丈夫だと思うけど、これ以上無駄に力を使うようなら、僕が無理矢理にでも連れて行くよ。だって、あの子の力はシエルの…」
その影は屋上のフェンスの上に立ち、新月を映した暗い鏡に向かって話していた。だが、最後まで云い終わらない内に、何者かの声により遮られた。
『翔、喋り過ぎだ。必要な事だけ伝えてくれれば良い。』
その声は、翔と呼ばれた影の正体が手に持つ鏡の中から聞こえてきた。
「なんだよ。折角話し相手になってやろうと思ってるのに。一人だし何も出来ないし、つまらないだろう?てか、僕がつまらないんだよ。だって、監視ばっかりで何も出来ないんだもん。」
翔は不貞腐れたように云った。
『仕方無いだろう。最低限の通信にしなければ気付かれてしまうからな。お前はこれからもあの子の監視を頼む。次の新月の夜にまた連絡してくれ。』
鏡の中の声は一方的に話を終わらせた。
「あっ!?ちょっと待っ…ちぇっ。」
翔は、何も語らなくなった鏡を軽く宙に投げた。すると、鏡はそのまま夜の闇に溶けて消えた。
「さてと…。」
翔は何の躊躇もなく、フェンスの上から空中へと身体を躍らせた。
その背中には翼が現れていた。片方の翼には白い羽を湛え、もう片方は、羽を付ける筈であろう骨組だけが背中から伸びていた。
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