【一息】

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【一息】

競売用の厭らしいドレスから着替えたエルは、必要最低限の家具だけが揃えてある簡素なリビングのソファーに座り、背凭れに背中を預けた。 「しかし、よくこんな服を用意出来たわね。まさかジル…じゃなかった。流威が一人で買いに行ったの?」 エルは、流威が用意しておいてくれた流行の服を見て、意地悪そうに云った。 「エル様をいつお連れしても良いように、少しですが揃えておきました。…お気に召しませんでしたか?」 流威は、紅茶の支度をしながら平然と云った。 「あっ…そう…。」 流威が案内してくれたエルの為の部屋のクローゼットには、誰が着ても差し支えの無さそうな今時の流行の服が幾つかあったのだ。 「ですが、さすがに…その…下着まではご用意出来ませんでしたので、明日にでも見に行きましょう。」 そこまで用意してあったら、エルは流威を疎んじていただろう。 「じゃあ、その時に服も買ってこようかな。流威には悪いけど、あたしが好きな服とはジャンルが違うのよね。こういう普通の服も嫌いじゃないけど。それより…。」 エルはソファーに座り直し、真面目な表情で流威に話を促した。 「長くなりますので、紅茶をご用意させて頂きました。」 薔薇の香りのする紅茶をエルの前に置きながら、流威もまた真面目な表情を作り直した。 「では、エル様のご両親であるシエル様とフェルイ様の事、"EDEN"の事、そして…『禁忌』の事についてお話致しましょう。」
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