1.出会いと別れと一流財閥

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「そして、さようなら」 両親に精一杯の笑顔を見せ、俺はボロいアパートである倉凪家を後にした。 バタンと扉が閉まるのを確認し、振り返ってみれば一ノ瀬夫妻がそこにいた。 「俊一くん、本当にいいの?」 落ち着いた物腰で若奥様の綾香が心配そうに聞いてきた。 「……はい、行きましょう」 本当は両親から離れたくなかったが、一ノ瀬財閥のおかげで借金が帳消しになり生活保護まで与えられるなら養子でも何でもなってやろうと決めたから………… それで、あのダメな親がちゃんとした生活ができるなら俺は構わない。 外に止められていたリムジンに乗せられて、走りだしてから、すぐに伶次が話し掛けてきた。 「本当にいきなりで悪かったな」 助手席に座ってる伶次は後部座席へ振り返って話す。 「いえ、そんな事は……」 ベンツの、ソファーのようにふかふかの座席に驚きながら俺は答えた。 「無理をしなくてもいい。 ああ、改めて自己紹介をしようか。私は一ノ瀬伶次、一ノ瀬財閥の社長をやっている」 庶民のさらに下である貧民だった俺に、伶次は頭を下げた。 「私は一ノ瀬綾香、レイちゃんの奥さんよ」 レイちゃん?ああ、伶次だからレイちゃんか…… ニコニコと優しい笑顔を見せる綾香、ずいぶんと綺麗な人だと誰もが必ず思うだろう。 「えっと……俺は、倉凪俊一です。これからよろしくお願いします」 肩書きのようなものも無い俺には、こんな挨拶しか思いつかない。 もう少し気の利いた挨拶でも言えるようにしておくべきだった…………
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