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それは突然の出来事だった。
ふわりと風が吹いたかと思えば、隣にいたはずの由美が抱きついてきたのである。
女の子特有の柔らかい体が密着し、香水とは違ういい匂いが由美から伝わる。
「お、おい!由美!」
「少し……このままで」
華奢な体から伸びるほっそりした腕が、腰に強く回されていて動けない。
力ずくで振りほどくのも容易だったが、場の雰囲気にそぐわない。
とりあえず、由美が離れるか何か言うかをひたすら待つことに。
結局由美が話し掛けてきたのは、時間がたっぷり一分経ってからだった。
「……俊一」
「何?」
俊一のワイシャツから顔を離し、身長差があるから由美は上目遣いで話す。
「前の両親に会いたい?」
「…あぁ」
考えるまでもなかった。
昨日まで会っていたが、いざこうなると会いたいと思うのだ。
「一ノ瀬家は嫌?」
「んなこと無い」
一ノ瀬家には感謝してるし、嫌悪感を抱いても無い。
むしろ好感を持てるくらいだ。
「じゃあ……」
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