39085人が本棚に入れています
本棚に追加
/522ページ
「こちらはあの一ノ瀬財閥の社長さんで、一ノ瀬伶次(イチノセ レイジ)さん」
おっかなびっくりに母さんは俺に説明をする。
「よろしくな、俊一」
「えっ? あ、はい……」
いきなり呼び捨てという礼儀知らずな印象があったが、そんなことより俺の気は他に向いていた。
「で、こっちが奥さんの一ノ瀬綾香(イチノセ アヤカ)さんよ」
母さんの声は遠慮がちで、すでにかなり小さかった。
「よろしくね、俊一くん」
「あー、はい…」
差し出された綾香の柔らかい手を繋いで握手を交わす俊一。
「一ノ瀬財閥って……」
ようやく理解し始めた俺の思考を察したのか、伶次が満足そうに教える。
「お菓子やオモチャで幅広く有名な一ノ瀬財閥だが、
俊一は聞いたことは無いか?」
「……あっ!!」
ようやく繋がった一つの結論。
この国で大財閥をあげれば間違いなく出てくる名前の一つ。
それが『一ノ瀬財閥』
日本中の子供達を虜にするような魅力を持ったお菓子やオモチャの数々。
最近は子供だけではなく、ターゲットの層を大人にも当てて急激に成長中。
数は少ないが、海外にも少しずつ出回り始めているという噂は貧乏な俺ですら耳にしたことがあった。そして目の前にいる人物の風格からして、この結論はおおかた間違いでは無い。
「よかったわ、俊一くんも知っていたようね」
綾香が嬉しそうに胸を撫で下ろすが、俺の疑問はそれだけではない。
最初のコメントを投稿しよう!