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「それより、その…… 一ノ瀬財閥のお二人がなぜこんなとこに?」
かの有名な財閥の社長さんとその奥さまが、このようなボロいアパートに訪れるだけで異常なのだ。
それを不思議に思わない奴がいたら、それこそ逆におかしい感覚の持ち主だと俺は言い切れる。
「「一ノ瀬財閥?
いいえ、ケフィアです」」
「………………」
この場の空気に合わない緊張感ぶち壊しの発言が一ノ瀬夫妻から返ってきた。
いやいや、空気読めよ……。
内心で華麗にツッコミを入れた俺に、さっきから黙っていた父さんがようやく口を開いた。
「……すまない俊一!!」
ちゃぶ台を両手で力強く叩いて、珍しく俺に勢いよく頭を下げる父が目の前にいた。
バンッ、と大きな音が狭いアパートの部屋に響き渡る。
「父さん、いきなりどうしたのさ?」
雰囲気からして良くない話だと感じていたが、それでも俺はそう聞くしかなかった。
一ノ瀬夫妻は黙って事の行方を静かに見守っている。
「……俊一には勝手だが、俺は…お前を一ノ瀬財閥の養子にしてしまったんだ!」
頭を下げたまま、震える声で父さんは俺に話した。
隣にいる母さんも、声を殺して泣いている。
「俺が………養子?」
父さんの言葉をおうむ返しに呟いた瞬間、意識が飛びそうになった。
立ちくらみのような感覚に襲われたが、それに必死で耐える。
「お父さんの言う通りだ、俊一くんを我が一ノ瀬財閥の養子に迎えることにした」
さっきとは打って変わって真剣な眼差しの伶次が穏やかな笑みを俊一に向けた。
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