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夜中
入り口をくぐると、そこには受付があり老婆が座っていた。
『あの~、泊まりたいんですけど部屋空いてますぅ~?』
恐る恐る聞いてみると
『ええ、一部屋だけ空いてますけど………』
『泊めてもらえますか?』
『………いいですよ。』
何かとても引っ掛かる言い回しだ。
『宿泊費はいくらですか?』
『あの部屋は頂いていませんから結構ですよ…』
明らかにおかしい!!そう思ったが、長距離を運転してきた疲れと蒸し暑さから解放される喜びに、つい
『じゃあ、お願いします』
と言っていた。
部屋に入って始めに驚いた事は、なぜかエアコンが動いていないのにか部屋がひんやりしている事。そして、綺麗に掃除してあるのにどこか暗い……まるで地下室のような部屋だった。
僕が
『こんなきれいな部屋、ただで泊まっていいんですかぁ?』
と聞くと老婆は
『この部屋はいいんですよ。ただ、一つだけ忠告しておきます。夜中にドアをノックする音がしても、決して開けないで下さい。開けたら責任は持てませんよ。』
なんて、理不尽な事を言うのか?僕は少しムッとして言った。
『さっきから見てるとあなた以外に従業員がいるようには見えないんですけど、あなたが扉を叩くんですか?!』
すると、老婆は聞こえない位小さな声で
『いませんよ………けど…』
と言って部屋を出ていってしまった。
まったくもって面白くない。これじゃ、安いホラー映画みたいじゃないか?
僕は温泉に行く元気もなく備え付けの風呂に入り、さっさと布団に潜り込んだ。
普段、地震が起きても目覚める事のない僕だけど、なぜか目が開いた。虫の声がかすかに聞こえる真夜中…。たしかにそれは聞こえた。かすかに扉を叩く弱々しい音…。もしかしたら風の音を聞き間違えたのかと思い、再び目蓋を閉じた瞬間!!!
「ドン!ドン!」
今度は明らかに扉を叩いているとわかる大きさだった。そして、その音は次第に増していき最後は耳を塞ぎたくなる程、荒々しいものへと変わっていった。
さすがに気味が悪く、扉に目線を送ったままじっとしていると、今度はゆっくり…ゆっくりと扉が開き始めたのだ…。よく考えたら、僕は老婆が部屋を出ていった時にたしかに鍵をかけたはずだった。いつの間にか閉めたはずの扉の鍵が開いていたのか…?
理由などこの際どうでもいい。
今ある事実は開いた扉の向こうに黒い陰が映っていた…。
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