プロローグ

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貴方が好きだから、私はきっと強く生きれる。 「五月のリフレッシュには帰ってくるから。それまで浮気をしないように」 それは、こっちの台詞ですと空港から五十嵐を見送ったのは、もう一ヶ月も前のことだ。既に初夏の兆しが立ち込めてきた九州は、来たるゴールデンウィークに向けて、新緑を一段と濃くしていた。 最初の一週間は、五十嵐のいない淋しさが募ったものの、元々の気丈で明るい性格の理子は、五十嵐のいない生活に慣れていった。理子と五十嵐は、恋人という時間を共通する以外は以前と変わらずのいがみ合をしていたから、上司と部下の関係は少なからず均衡は保たれていて、中隊には内緒の関係は未だ秘密のままだ。 五十嵐からプロポーズをされたものの、冷静さを取り戻した理子が、今の中隊に残留することを決意と熱望し今に至る。 不安はある。五十嵐は本当にむかつき、嫌味な男だが、傍目は二枚目でいい男だ。あの歯に物着せぬ態度がクールでいいという女性がいないわけじゃないのを理子は知っている。そして何より仕事が出来て、人脈に長ける。 今考えれば五十嵐ほどのいい男が、理子と付き合う理由などないのだ。しかし、五十嵐は今までの男達とは違う。厳しく評価し、そして正当な判断を下してくれる。優しくないのかといったらそうじゃない。どんなきつい言葉の中にも優しさを隠していて、そして愛してくれている。
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