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「──楼主、お願いがあります」
大きな窓が付けられ、部屋も常連専用並に広いこの場所で。
俺は楼主と二人で話をしていた。
「…俺の水揚げの話、無かった事に出来ませんか?」
カコン、と鹿おどしの音が響く。
それほど、二人の間には会話がなかった。
(あの日………)
あの日───。
葉月の口から出た真実は、俺の心を崩れさせるには十分過ぎるものだった。
「桜花と楼主は兄弟…しかも“双子”だよ」
「双…子……」
俺はたった今葉月から告げられた言葉を理解出来なかった。
(…俺が…楼主と……双子…?)
そんな事、有り得ないと…思いたかった。
でもそれが“真実”……。
「何故楼主が桜花を引き取ったかまでは知らない…だけど…」
葉月は真っ直ぐ見つめて告げた。
「俺は楼主から…“大切な人”の世話役をしてくれと頼まれたよ」
葉月が知る真実、そして知らされた真実………。
葉月は俺が引き取られた意味を知らない。
ならば直接聞く他に無いと、俺はそれから楼主の部屋に来た。
そして今に至る───。
「何故今になって取消を求める」
一応話は聞いてくれるらしい。
俺は、深呼吸をひとつして楼主を見上げた。
「───貴方が好きです……」
それが本心でありたいと願った俺の心───…。
「…俺が好きだから、取消を願うのか?」
楼主から出た言葉は、呆気ないものだった。
「悪いがその要望に答えはない」
椅子に座りながら告げる楼主。
その顔はまさに呆れ顔だ。
「遊廓の主と云う手前、一度決めた予定は変えられない」
「でも……っ」
(ここで引き下がる訳にはいかない…)
きちんと云っておきたかった。
だけど。
「───お前に拒否権はない」
──俺は返す言葉を失った……。
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