‡忘れたい真実

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*** 次の朝。 俺は予想していなかった事が自分の身に起こった。 ──今宵、佐々原様に水揚げされると云う発表を……。 「………桜花……」 紅い着物、前に掛けた帯……姿形は文句なしに綺麗な人が、控室にいた。 「──葉月…来てくれたんだ…」 控室の扉に寄り掛かっている葉月に向かって、俺は微笑んだ。 朝──…。 それはあまりにも突然な話で、俺は一瞬、我が耳を疑った。 “桜花花魁の水揚げを、今宵[桐ノ間]で行うとの事です” そう云われた時、その場にいた葉月が驚いた。 「桜花はまだ18になってない。あいつは何考えてんだ…」 そう云いながら俺の肩を掴んだ葉月は、耳元でこう呟いた。 「──……桜花、何があっても自分を信じろ」 「……え…?」 「今から俺は桜花を綺麗にする。……佐々原様が誰であっても、お前は心を信じろ」 他の人には聞こえないくらいの小さな声で、葉月はそう云った。 佐々原様が誰であっても……。 葉月はくしゃりと俺の前髪を掻き上げると、衣装の準備の為に部屋を出て行った。 それから時が過ぎ、葉月によって俺は水揚げの為の衣装に身を包んだ。 「…綺麗だよ…桜花…」 細目で見る葉月に、俺は多少の諦めを含んだ笑いを向けた。 「男に綺麗って…使う物?」 そんな会話をしていた俺と葉月。 そして葉月は、俺にある事を問い掛けた。 「……桜花、まだ…諦め切れない…?」 葉月が何を云おうとしているのか……薄々は解っていた。 「…好きだよ…まだ…」 「それが今日、佐々原様によってだとしても?」 俺はコクリと頷く。 諦め切れるなら、こんなにも期待しない。 (水揚げは嘘だって…今云って欲しい……) どうしても俺は楼主の顔しか浮かばない。 だから云って欲しかった。 “嘘だよ”と──……。 .
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