181人が本棚に入れています
本棚に追加
「桜花ー、舞の準備出来たぁ?」
「──あと少しっ!」
廊下で待つ葉月に待ったをかけ、せっせと舞の準備をする。
───あれから2年半。
あと少しで18歳を迎える俺……桜花。
此処では18歳を迎えると『水揚げ』と云って、この時初めて客をとる。
つまり、18歳になれば嫌でもお客と一夜を共にしなければならない。
ご丁寧に今や俺は雪香邸の看板遊女……とまでは行かないが、そこそこの人気を誇っている。
「…あれ、香蓉さんは?」
着付けて貰った俺は、ふとその場にいない妓人の名を呼んだ。
「“月下の君”なら藤野様の処。今頃喘いでいるかもな」
やれやれ…と葉月が素っ気なく答える人物は一人しかいない。
香蓉───この遊廓の中で最も美麗と云われる妓人。
しっとりとした黒髪が映える、葉月と同期の遊女。
その容姿から、俺達の間では密に“月下の君”と呼ばれている。
藤野様と云う方が、身請け(花魁を自分の側に置く事)をするという話もある為、彼は近々この廓を去るだろう。
(…身請け……か…)
いつか俺も誰かに身請けされるだろう。
そんな事を考えながら、俺は部屋から客間へ急いだ───。
.
最初のコメントを投稿しよう!