‡真実の訳

2/4
前へ
/17ページ
次へ
「桜花ー、舞の準備出来たぁ?」 「──あと少しっ!」 廊下で待つ葉月に待ったをかけ、せっせと舞の準備をする。 ───あれから2年半。 あと少しで18歳を迎える俺……桜花。 此処では18歳を迎えると『水揚げ』と云って、この時初めて客をとる。 つまり、18歳になれば嫌でもお客と一夜を共にしなければならない。 ご丁寧に今や俺は雪香邸の看板遊女……とまでは行かないが、そこそこの人気を誇っている。 「…あれ、香蓉さんは?」 着付けて貰った俺は、ふとその場にいない妓人の名を呼んだ。 「“月下の君”なら藤野様の処。今頃喘いでいるかもな」 やれやれ…と葉月が素っ気なく答える人物は一人しかいない。 香蓉───この遊廓の中で最も美麗と云われる妓人。 しっとりとした黒髪が映える、葉月と同期の遊女。 その容姿から、俺達の間では密に“月下の君”と呼ばれている。 藤野様と云う方が、身請け(花魁を自分の側に置く事)をするという話もある為、彼は近々この廓を去るだろう。 (…身請け……か…) いつか俺も誰かに身請けされるだろう。 そんな事を考えながら、俺は部屋から客間へ急いだ───。 .
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

181人が本棚に入れています
本棚に追加