‡真実の訳

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此処での舞は、一人で行う『楓宵鈴花(フウショウリンカ)』から妓人数十人で舞う『梅花竜仙(バイカリュウセン)』まで様々。 特に目立つ妓舞『華月夢宴(カゲツムエン)』は雪香邸で上位三位の妓人のみ許される妓曲。 俺はまだ水揚げが済んでない為、ただ後ろで舞うだけの存在。 それでも、俺は舞うこの日が好きだった。 「桜花」 舞の席から外れ、中廊下で夜風に当たっていた時。 俺は楼主から声をかけられた。 「……何でしょう」 声が多少震えていたが、気にしたふうでもなく、楼主は云った。 「──お前の水揚げが決まった」 ───ドクン。 (……来た…………) 動揺を隠しながら、俺は楼主に目を向ける。 「佐々原様と云う方で、こちらとも親しい間柄だ。たっぷり可愛いがられるといい」 不敵な微笑みを浮かべながら、楼主はそっと俺の頬に手を寄せる。 「…怖いか?」 ───この2年でわかった事…。 楼主は意外に妓人を思いやるのだ。 顔はクールで格好いいのに、それでいて妓人には優しい…。 怖いかと聞かれれば、答えは“はい”だ。 見知らぬ世界への扉。 逃げ出したい時が何度かあった。 ──でも言い訳は通用しない。 売られた身だから、俺はそれに従うしかない。 (───頑張るしかない…) 俺は頷きそうになるのを堪え、首を横に振った。 .
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