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しかし頭ん中で盛り上がってるだけで、いつまで経っても唇に温もりを感じない。
それどころか何故か右手の親指がひんやりとしたから、さすがにおかしいと思って俺は目を開けたんだ。
「ウフフ、じゃあね~」
そしたら俺の視線の先には電車に入って嬉しそうに何かを持って、ヒラヒラさせている凛がいた。
そして訳も分からないまま電車のベルが鳴り、まだ何も理解できていない俺をよそに電車は出発した。
夏休みなのにどこか冷たい風が俺に吹いてきた気がした。
そんな時にふと、また親指が冷たくなった。
何だよ?とか思って下を見たとき俺はそれを発見した。
「また、はめられた……」
俺の親指には赤いインク、つまり朱肉がついていた。
確か凛の持っていた紙の右下にも赤いマークがあった気がする。
つまり凛は俺の拇印がしっかりついた誓約書を持って笑顔で帰って行ったのだ。
何とも言えない敗北感に身を包まれたまま帰りながら、俺と雄太の生活の二日目は幕を閉じた。
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