+粉雪+

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その日はとても寒かった。 世間ではクリスマスと呼ばれる日だった。 私は家でじっとしていることに堪えられず、散歩に出掛けることにした。 特に行く宛もなく歩いていると、一組のカップルが寄り添って歩いて来るのが目に入った。 とても幸せそうな雰囲気で二人は通り過ぎて行った。 私は無意識に立ち止まっていて 、頬に温かい液体が流れ落ちるのを感じた。 あの写真の人が私の側を通り過ぎて行ったのだ。 でもなぜ私は泣いているのだろう。 思い出せない。 私と写真の人の間に何かあったのだろうか。 そもそも通り過ぎていったあの人は本当に写真の人だったのだろうか。 わからない。 でも思い出したくない。 私は止め処なく流れ落ちる温かい液体をぬぐいながら、宛もなくまた歩き始めた。 いつの間にか降り出していた冷たくて甘くない粉は、私を包み込むように降り続いていた。
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